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「指示待ち組織」を変えたリーダーが、失敗から得た教訓。自律型組織への20年」
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「自分の至らなさで、従業員の人生を変えてしまった」
総合物流会社・床枝衣料工業株式会社の代表取締役 床枝啓太郎さんは、社長就任直後の苦い経験を振り返ります。
組織改革を志しながらも、招いてしまった現場の混乱と幹部たちの離職。
その痛烈な失敗による、ある教訓が床枝さんを変えました。
それをきっかけにマネジメントの根本を見直した結果、現在では社長が1週間不在にしても現場が自ら判断して稼働する「自律型組織」へと変貌を遂げています。
床枝さんが、指示待ち組織を変えるために進めたこととは。詳しく伺います。
BizHint 編集部 2026年3月17日(火)掲載
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「右腕だった幹部の離職」
大きな失敗から得た教訓。指示待ちから、自律型組織への軌跡
――最初に、床枝さんが社長に就任された頃の状況について教えてください。
床枝:
最初に少し背景をお話しすると、当社はアパレル・化粧品・コンタクトレンズなど取扱いの難しい商材を主軸に据えた総合物流会社です。倉庫から人材まですべてを自前で持つスタイルが、最大の強みとなっています。
父が創業したこの会社に入社したのは、2003年のこと。その3年後、二代目社長に就任しました。当時は、「組織」と呼べるような仕組みはほとんどありませんでした。従業員は数十名いましたが、パートさんの割合が多く、父である会長と私、センター長の三者だけで現場を回しているような状態で。それ以外の役職も人事評価制度も、存在していませんでした。
マネジメントスタイルも、今とはまったく異なるものでした。拠点のトップであるセンター長には大きな権限が与えられており、完全なるトップダウンの体制が敷かれていました。その結果、従業員はただ指示されたことだけをこなす「指示待ち」の状態になっていて。トップの指示と異なる進め方をすれば怒られる環境でしたから、現場から意見やアイデアが上がってくることは、まったくありませんでしたね……。
私は「彼ら彼女らは、仕事をしていて楽しいのだろうか」と、強い違和感を覚えていました。私自身、やらされ仕事が好きではありませんでしたから、従業員にも同じ思いをさせたくなかった。自分で考え実践し、何が合っていて何が違うのかを試行錯誤しながら進めることに、仕事の楽しさはあるはずです。また、仕事を「自分ごと」として捉えてほしいと強く思っていました。ただ、当時は「社長」という肩書きはあるものの、長年続いてきた慣習を変えられるほどの力はありませんでした。
この頃、事業拡大を目指して積極的な営業活動を進め、女性向けブランドなどの新規取引を獲得し、急拡大させていました。センターは1箇所から3箇所に増え、それに伴って従業員数も大幅に増加。そのため私の目が行き届かなくなり、外部から大手物流会社出身の経験者を採用し、組織改革の旗振り役を任せることにしました。例えば、それまで現場が自由にやっていた業務に対し、会社としてのルールを設けました。各センターの判断で自由に発注できていたものを、稟議書を上げて社長の承認を得てから発注する「稟議制度」などの導入です。属人的な管理から、仕組みによる管理へと移行しようとしたわけです。
ただ、役職や個々の役割などが整っていない状態で急激に売上が拡大したことにより、現場は混乱。ミスやトラブルが続きました。また、それまである程度の裁量を持って自由に働いていたセンター長クラスの幹部社員たちも、新たなルールの数々に強く反発しました。私は新旧メンバーの間に入ってまとめようとしたのですが、なかなかうまくいかず……。結果、そのうち数人が「ついていけない」と離職してしまう事態を招いてしまったのです。中には右腕として頼りにしていた幹部もおり、そのショックは計り知れませんでした。
ただ、この失敗から私は大きな「教訓」を得ました。その教訓を胸に、一つひとつ組織改革を進めました。それから20年。従業員の主体性は大きく高まり、現在では私が1週間不在にしても問題なく回る「自律型組織」に変貌を遂げています。
――その「教訓」とは何だったのでしょうか?
現場の声に耳を傾けなければ、組織課題は解決できないということです。
裏を返せば当時の私は、パートさんや社員が抱えていた不満や混乱の実態を吸い上げられないまま、現場が見えていない状態で、上から新しい仕組みや大量の案件を降ろしてしまっていたのです。それが、現場の混乱や幹部社員の離職を防げなかった大きな要因だったと痛感しました。
自分の至らなさで、退職した従業員の人生を変えてしまった。この経験は、私にとって本当に重いものでした……。それ以来、センターに自ら足を運び、直接話を聞くようにしました。まず取り組んだのが、現場で手を動かしてくれているパートさんの声を聞くこと。現場を一番冷静に、そして正確に見ているのは、毎日その場で手を動かしているパートの方たちだと思ったからです。実際、核心を突いた意見をもらえることが多かったですね。
それと同時に、声が上がったときには必ず何らかのリアクションを返すことを自分に課しました。例えば、「15時上がりの人と17時上がりの人で時給が同じなのはおかしい」という声が上がりました。17時まで働く人には「その日に終わらせなければならない残務をすべて片付ける」という追加の負荷が掛かっていたからです。すぐに上層部で検討し、現在、評価制度への反映が予定されています。「言っても無駄」と思わせてしまうと、それ以降、意見が上がらなくなってしまいます。声を拾うだけでなく、それに応えることまでがワンセットだと考えています。
そして2022年からは、毎月社員一人ひとりと1対1で話す時間を設けるようにしました。いわゆる1on1ですが、これは業務連絡の場ではありません。プライベートの相談でも、将来どうなりたいかという話でも、その人が今感じていることを何でも話せる時間にしています。とはいえ、はじめの頃は「特に何もないです」と数分で終わってしまうこともありました。
ただ、対話を続けていくうちに深い悩みも素直に話してくれるようになり、時には1時間ほどじっくり会話することもあります。「信頼関係」というのは、こうして積み上げていくものだと実感しています。そうした対話の積み重ねにより、少しずつ声を上げられる組織に変わっていったのです。
「牛耳る」から「寄り添う」へ センター長の役割を再定義したら、組織が変わった
床枝:
もう一つ大切だと思ったのが「役割を明確にすること」です。
お話ししたように、以前は役職も評価制度もなく、センター長の下はフラットな関係で。少人数の頃はそれでも回っていましたが、規模が大きくなると統制が取れなくなってきました。それで、現場の声を大切にするため、優秀なパートさんを「パートリーダー」として現場のトップに引き上げ、相応の給与を支払うという階層づくりを始めました。「言われたことだけやればいい」という文化から、自分たちで考えて動けるチームへと変えていくための、土台づくりです。
そして2022年には、組織を「社長・取締役」「センター長」「社員(課長・係長)」「パートリーダー」「パート従業員」という明確な階層に分け、それぞれに対して「どこまでの役割と責任を求めるか」を定めました。役職名をつけるだけでは意味がありません。その役職に何を期待しているのかを明言することで、はじめて組織が動き始めると考えています。
特に大きく変わったのが、センター長の役割です。かつては完全なトップダウンで、言葉は悪いですが「牛耳る」がセンター長の仕事でした。それが今では、「人の話を聞くこと」「現場に寄り添い、情報を吸い上げるマネジメント」が最も重要な役割として再定義されています。また、パートリーダーには、現場を回す権限を持ってもらっています。それぞれの役割が明確になったことで、かつての指示待ち組織から脱却し、今ではパートリーダーたちが自ら判断して現場を動かしているので、私のところには大きなトラブル以外は上がってこなくなりましたね。
――評価制度についても改革されたのでしょうか。
床枝:
はい。かつての評価は、センター長が独断で決め、会長が承認するというトップダウンの方式でした。
評価基準が明確でないために、「センター長に気に入られているかどうかで評価が決まっているのではないか」という不満が現場に広がっていました。基準がないと、うまくいかないことを人のせいにしてしまう……。そうした状況を変えるために、2022年、まずは社員向けの人事評価制度を導入しました。
制度は、幹部とともに約1年半かけて作り上げました。まずは「型」を作り、現場に落とし込み運用しながら改良を重ねていくというスタイルです。評価基準は全社員に公開されており、「自分が何で評価されるのか」が誰にでも見える状態になっています。会社が提示する数字目標に加えて、「自分が収益や組織に対してどう貢献するのか」を社員自身に申告してもらい、自己評価 → 上司評価 → 社長評価という三段階のステップを踏む仕組みです。また、パートさんに対しても評価基準を設け、能力によって時給が変わる制度を導入しました。
仕事を「自分ごと」として捉えてもらうため、経営数字の開示もスタートしました。
――詳しく教えてください。
床枝:
かつては、売上や利益などの数字は、従業員にまったく公開されていませんでした。だから、従業員たちは自分の仕事が会社にどれだけ貢献しているのか、どこに問題があるのかを知る術がありませんでした。ただ目の前の作業をこなすだけで、会社全体の状況は見えない。そんな状態では、自分で考えて動くことも、改善しようとする意欲も生まれるはずがありません。
それで、2019年頃から数字の開示をスタートしました。月2回、社員約20名が参加する「予算会議」を導入し、取引先別・作業別のすべての生産性まで、非常に細かな数字をその場で開示・チェックする体制を整えていきました。それまで感覚値で管理していたものが、根拠に基づいて改善する形へと変わっていったのです。
数字が見えるようになったことで、例えば「今、入荷の工程で生産性が落ちている」といった課題を自分たちで把握し、整理整頓や効率化に主体的に取り組めるようになりました。どうしても効率が合わない場合は値上げ交渉の判断材料にするなど、現場が自ら「利益を生み出す行動」をとれるようになっています。作業の進め方などは現場と取締役のレベルで完結しており、大きなトラブル以外で私の判断を仰ぐことはほとんどなくなりました。
「社長としての軸がなかった」
幹部離職をきっかけに学び続けた社長が、社内木鶏会で起こした変化
――床枝さんは、ご自身でも学びを深められたそうですね。
床枝:
振り返ってみると、前職の商社時代は部下をマネジメントする環境に長くいたわけではなく、組織づくりについて深く学ぶ機会はほとんどありませんでした。社長に就任してからも、個人的に月刊誌「致知」を購読していましたが、あくまで個人的な学びの域を出ませんでした。
状況が変わったのは、幹部の離職がきっかけです。今振り返ると、「社長としてどうあるべきか」「従業員とどう向き合うべきか」という確固たる軸が自分の中になかったのだと思います。その反省から、稲盛和夫氏の著書を読み漁ったり、さまざまな研修に参加したりと、本格的な自己研鑽を始めました。
2020年からはアチーブメント社の研修を受講するようになり、「何のために、誰のために経営しているのか」を深く問い直す機会を得ました。「利他」という言葉、そして「人間は幸せになるために生まれてきている」という考え方には、強い衝撃を受けました。どんな本を読んでも、どんな研修を受けても、結局そこに行き着くのです。
この頃から、週1回お昼の時間を使った動画学習を有志の社員と一緒に始めました。
こうして自分の中に積み上げてきた学びや価値観を、組織全体に広げていきたいと思うようになり、2023年から社内で「木鶏会」を始めました。
これは、月刊誌「致知」を全社員に配布し、それぞれが気に入った記事を選んで感想文を書き、グループで共有し、最後に全体発表を行うという取り組みです。私自身も毎回参加し、自分の考えや経営理念を直接伝える場として活用しています。
――従業員の皆さんの反応はいかがでしたか。
床枝:
実は、導入当初は「非難轟々」でした……。「面倒くさい」という声も当然ありましたし、最初は苦労の連続でした。ただ、続けていくうちに少しずつ変化が生まれてきました。「この社員はこんな深い考え方をしていたのか」という新たな発見もありましたし、拠点を超えた社員同士の距離感も劇的に縮まってきたのです。ある時は、20歳の新入社員が「人生3周目なのか」と驚かれるほど深い内容の感想文を書いてきたこともありました。一人ひとりの違いを認め、良いところを伸ばしていく。木鶏会は、その土台になってくれていると感じています。
「従業員の主体性が生んだ、V字回復。人と組織が変われば、業績もついてくる」
――改めて、現在の組織について教えてください。
床枝:
かつては「言われたことだけをやる」指示待ちの組織でした。それが今では、社長がいなくても自ら考えて動ける、自律型組織へと変わりました。
現場では、パートリーダーを中心にスタッフが主体的に考え、作業効率の改善や整理整頓に取り組んでいます。アパレルや化粧品といった商材ごとのイレギュラー対応や顧客との交渉も、現場レベルで完結しています。
先日、私が1週間不在にすることがあったのですが、現場は問題なく回っていました。むしろ、私が不在であることに気づいていなかったのではないかと思うほどで(笑)。
また、以前は何か違うことをしようとすると怒られ、誰も挑戦しようとしない組織でした。しかし組織改革を始めたのと同じ頃から、私は 「失敗は経験だ」「失敗は成功の一つ手前の段階だ」と伝え続けてきました。 結果、従業員が自ら考えて新しいやり方を試し、積極的にチャレンジする風土が少しずつ根付いてきています。 役割を明確にして権限を現場に委譲し、現場の声を大切にするマネジメントへと転換してきたことで、一人ひとりが仕事を自分ごととして捉えて働いてくれるようになってきた。それが今の組織の姿です。
――年々、業績も向上しています。従業員の皆さんの主体性と、業績向上に関係はあるのでしょうか?
床枝:
はい。組織の変革とともに、業績も大きく変わってきました。コロナ禍には、店舗への納入がほぼなくなり物量が減少したため、売上は5億円台まで落ち込みました。ただ、その間も従業員を一人も解雇することなく乗り切り、利益は着実に確保し続けました。そして 直近の2025年3月期には、売上が約8.6億円とコロナ前を大きく超える水準へと拡大しています。
業績拡大の背景には、取扱い商材の多角化があります。かつては量販店やアパレル品の保管・アイロン掛けが中心でしたが、アパレル市場の縮小を見据え、化粧品・コンタクトレンズ・香水など商材の幅を広げてきました。さらに2024年5月には危険物倉庫の認定も取得し、取扱いが難しく単価の高い商材へと領域を拡大したことが、近年の飛躍的な成長につながっています。
2025年に稼働を開始した、危険物倉庫。これまでの知見を活かし、幅広いニーズに対応可能となった。
床枝:そして、この多角化戦略を支えているのが、現場の主体性です。 新しい商材や新規の仕事を受ける際は、手順の違いや先入観のずれから、どうしても現場でトラブルが起きやすくなります。 かつての指示待ち組織では、現場がすぐにパンクしていました。 しかし今は、 現場スタッフが自ら考え、臨機応変に判断・交渉できる主体性を身につけているため、取扱いの難しい新規領域にも安心して踏み込んでいける。 社長として今はもう安心して任せられるほど、現場の対応力は上がっています。
以前、従業員に仕事の面白さややりがいについて話を聞いたことがあります。すると「生産性を上げるために何をすべきか考え、実践できることが楽しい」「センターの売上を伸ばして会社に貢献することがやりがいだ」「課題が見つかったとき、みんなの意見を取り入れて作業効率を上げられると嬉しい」など、 自ら考えて実践することを楽しんでいる声が多く聞かれました。
今、現場はパートリーダーたちが自ら判断して回し、注文を取ってくる営業チームと連携してミスを最小限に防いでくれています。組織の土台が、ようやく整ってきたと感じていますね。 会社が現場の声に耳を傾け、従業員の主体性を引き出せれば、業績も必ずついてくる。私はそう確信しています。
